「コールセンターは人工知能(AI)に仕事を取って代わられるのか」
昨年ニュースになることも多かったですが、コールセンターの仕事は将来AIが代行すると予想されてる。音声認識等の技術が進むにつれて、AIがコールセンターの業務にも入ってくることは間違いないと考えるが、完全に取って代わられるのだろうか。
「AIがコールセンターにもたらす効果と課題」、そして「コールセンターにおけるITシステムのAI化の今後について」、筆者なりにまとめてみた。
目次
AIがコールセンターにもたらす効果と課題
AI導入の状況
「AIはオペレーターに取って代わられる」と言われているが、まだAIが取って代わったという話を聞くことはない。現在はまだビジョンが先行している程度で、ルールベースのチャットボットを設置している企業が増えてきたかなという印象。またルールベースのボットを、AIと言ってしまうのはいかがなものかとは感じる。
コールセンターにおけるAI化について、「お客様がオペレーターと会話していると思っているが、実はAIが自動応答している」、そんなイメージが一般的ではないだろうか。
そのために必要な技術が「音声認識」。音声認識の現状の課題について、整理してみた。
音声認識の課題
弊社でも通話録音サービス「YouWire」や音声認識サービス「YouWire-音声認識」、またさまざまな音声認識エンジンの認識率の検証も行っているが、コールセンターにおいては、まだ大手企業がPoCでトライアル的に導入しているレベルではないだろうか。
音声認識技術を利用し、オペレーターに代わり自動応答するためには、一般的に以下のプロセスが必要となる。
-
- ①お客様の音声のキャプチャーを取得する
- ②音声キャプチャーを音声認識エンジンへ送る
- ③音声のテキスト化を行う
- ④テキスト化したデータを自然言語処理エンジンに送る
- ⑤テキストの内容を理解し、テキストに対する回答を送る
- ⑥回答テキストを音声合成しお客様へ音声を送る
上記プロセスをみていただくとわかるが、AIがお客様の質問に対してどれくらいの精度で回答するかの前に、お客様の発している言葉をどれだけ正確にテキスト化(文字化)できるかが重要である。
現状の音声認識は、各社日々精度を上げているが50~80%程度と言われており、普通名詞についてはかなり高いレベルで認識しているが、固有名詞は辞書機能に左右されるため、各社認識率が分かれるところでもある。以下、日本の音声認識のパイオニアである「AmiVoice」Webサイトにも以下のように記載している。
一般的にはコールセンターのオペレーターなど丁寧な喋り方をする方の場合は平均80%~95%程度になり、内線通話やお客様側などくだけた喋り方の場合は平均50%~80%程度になります。
上記にあるように、オペレータとお客様、それぞれの立場によっても認識率が変わってくる。
コールセンターでは、ヘッドセットをつけており口元にマイクがあるのできれいに音声を取ることがしやすい。逆にお客様は、外で携帯電話から電話してきた場合、ノイズが入り、音声自体が正しく入ってこない。
音声認識の問題は、音声認識エンジンの精度だけではなく、その前段階の通話録音の問題があることが分かる。
次は、お客様側の自然言語の課題について考えてみたいと思う。
お客様側の自然言語の課題
コールセンターでは、品質管理や対話分析の目的で通話音声を文字に打ち起こすことがある。その際、お客様が話した内容をテキスト化した文章を読んでも意味が分からないことがよくある。
- 伝えたいことが事前に整理されておらず、支離滅裂な話し方
- 「あれ」「それ」といった代名詞
- 地域によって異なる訛り
対応するオペレーターは、前後の文脈を読み取ったり、事前に得ている知識や経験を基に想像力を働かせながら、相手の話を整理したり、くみ取ったりしながら対応する。この部分については、まだAIが追いつくまでにはかなりの時間を要すると考える。
AIとオペレーターが共存するコールセンター
現時点においては、完全に取って代わられることはなく、オペレーターを様々なところで支えてくれるパートナーとしての役割を果たしてくれるのではないかと考える。
「AI=オペレーター不要」と思われている方も多く、反射的にAI導入を拒否されている方も多いが、自分たちのことを助けてくれる仲間だと思い、取り組んでみることをお勧めする。
ではオペレーターのパートナーとなるべく、コールセンターにおけるITシステムのAI化について整理してみる。
今後のコールセンターに必要なシステム
他のコールセンターとの差別化となるAIと連携しているITシステムを紹介する。
同時に、導入時に留意しておくべき点についても書き留めておく。
最低限必要なシステム
ACD・IVR
ACDやIVRは、CTIを導入しているコールセンターにおいては、今や必須スキルである。
ただ将来的な観点で考えると、導入しているIVR等がAIエンジンや音声認識等の外部システムと柔軟に連携できるソリューションであるか、という視点で選定していく必要がある。
通話録音
コールセンター白書2017によれば、コールセンターにおける通話録音システムの導入率は95.3%とのこと。入れていないコールセンターのほうが珍しい。
しかしながら通話録音はゴールではなく、コールセンターのAI化にとっては1プロセスである。現在お使いの通話録音サービスが音声認識にも対応しているのか、今後対応予定なのか、チェックが必要である。ただオンプレの箱の中に音声データを保存し、何かあったときだけ引き出せればよいという程度の目的で通話録音しているのは不十分と考える。
チャットボット
チャットボットを導入しているコールセンターは、非常に増えている。今後導入していくコールセンターもさらに増えていくと考える。以下、チャットボットの売上規模予測である。(矢野経済研究所HPより抜粋)
留意すべきことは、チャットボットの導入によってコールセンターの省人化につながるとは必ずしも言えないこと。必ずしもチャットボットですべての対応を完結できるだけはなく、エスカレーションしてオペレーターに引き継がれるものもある。またチャットボットは新たなユーザー層からの問い合わせを増やすことが出来る。新たなユーザーの獲得を目的として、チャットボットを導入することを検討してみてはどうか。
今後導入が求められるシステム
今後コールセンターにおいて導入が必須となりそうなITシステムをご紹介する。
また、それらのシステムを導入した企業、もしくは導入を検討している企業の情報を踏まえて、導入の際、留意すべき点も記載したい。
RPA
昨年くらいからRPAがコールセンターにおいてもトレンドの1つとなっている。導入している、もしくは検討しているコールセンターも多いのではないか。
RPA導入企業でよく耳にするのは、「RPA導入したけど、費用対効果が悪い。」というもの。ポイントは、RPAの導入にあたり、以下のような手順できっちりと進めること。
-
- ①業務フローの整理
- ②業務フローの改善効果の算出
- ③RPAの導入
- ④RPAの浸透
大切なことは、自社内でまずは業務フローを整理し、改善が必要な業務、かつ改善効果が高そうな業務を明確にすること。RPAの業者でも業務フロー改善のコンサルティングをサービスとして行っているところも多いが、大変だと思うが、まずは自社内でやってみること。この作業を適当にやってしまうと、「RPAを入れてみたけど、思ったより業務が楽にならない。」となる。
音声認識
音声認識はコールセンターに限らず、導入企業が増えている。(以下、CallCenterJAPANより抜粋)
大切なことは、音声のテキスト化自体を目的とせず、テキスト化したデータをどのように活用したいかをはっきりさせておくこと。
当社でも通話録音サービス「YouWire」を展開し、通話録音だけではなくテキスト化もできるようになっている。テキスト化させたい理由はお客様によってさまざま。
- 録音したデータを管理するために、NGワードを話している通話について効率的に抽出したい
- 経営層が現場でのお客様の声を分析し、潜在的なニーズやリスクを明確にしたい
- テキスト化したデータをもとに、ボットのエンジンに取り込みたい
ボイスボット
チャットボットで使用しているエンジンを利用し、音声合成のサービスと紐付かせることで、ボイスボットの導入も今後のトレンドになると思われる。IVRで音声を流すのではなく、あくまでもお客様と会話形式でQAをやり取りするもの。
チャットボットを選定するに当たり、音声合成サービス(TextToSpeech)との連携を想定したサービス導入が良いと思われる。
オムニチャネル
2年ほど前からコールセンター関連のトレンドワードになっているのが「オムニチャネルソリューション」。
既存の電話やメールシステムだけではなく、WebFAXやSMS、SNS、WebChatなど複数のチャネルを同時に管理できるソリューションである。エンドユーザー側の利用チャネルの多様化により、コールセンター側での対応も徐々に求められてきている。
オムニチャネルソリューションは、何かしらのAIエンジンと連携している、もしくは連携可能なものが多く、将来を見据えて検証も含めて、導入を検討していく必要があると考える。
「コールセンターはAIに仕事を取って代わられるのか」まとめ
「コールセンターはAIに仕事を取って代わられるのか」というテーマで網羅的な記事を記載した。
前述した通り、AIはオペレーターの仕事を奪うのではなく、オペレーターを助けてくれるパートナーとしての存在と考える。筆者の考えは、従来の「受け身なコールセンター」の枠に留まらず、「AIを活用した戦略的な視点を持つ攻めのコールセンター」になれるか。
- 幅広くお客様へ情報を届けるためには
- リーチしたお客様に対して取るべきコミュニケーションの形とは
- お客様との継続的なコミュニケーションの取り方とは
- 限られたリソースの中で効率的にコミュニケーションのためには
以上のような視点で、戦略的にAIを活用したITシステムを導入することが勝てるコールセンターになると考える。
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